" /> 罪の轍 奥田英朗 感想 | 本読み広場

罪の轍/奥田英朗 感想(ネタバレなし)

日本の小説

「莫迦」と呼ばれる青年は何を想うのか。高度成長期の日本に起きた大事件の結末は。

どんな物語?

2019年(平成31年)の作品

東京オリンピックを来年に控えたころ、宇野憲治は北海道で雇われの漁師をしていた。

小さい頃から、言われたことをすぐに忘れてしまい、回りの人に「莫迦」呼ばれてしまうこともあったが、「いつかは東京へ行く」という思いを胸に、真面目に働いていた。

しかしその一方で、憲治は空き巣の常習犯でもあった。

やがて憲治は東京へ旅立つが、同じころに殺人事件と誘拐事件が発生し、世論を巻き込む大事になっていく。

感想

幼いころから、物忘れが多く、周りの人間からは「莫迦」と呼ばれてしまう青年憲治は、凶暴さというものは無いものの、罪に対する悪意というものがない様子には、あまり感じたことのない、未知のものを感じました。

罪の意識が希薄なゆえに、ためらいもなく悪事を働いてしまう憲治が、果たしてどこまでの事をしてしまうのか、そしてどのあたりで自制がかかるのかということ分からないままに、憲治の周辺で事件が起こっていく様子には、不安をあおられて、目が離せなくなっていきます。

徐々に明らかになっていく憲治の生い立ちや、周りの人物たちとの付き合い方を見ていると、憲治の人柄を単純に善か悪かに絞れない様子はとても悲しくて、同情を禁じえません。

大きな見どころは、大事件に立ち向かってゆく警察組織の執念と葛藤です。国民の注目を集めるなかでの捜査の行方は、凄まじい緊張感を持った戦いとして心に迫ってきます。

事件を追う刑事たちの人間関係も、上下の力加減や縄張り意識など、様々な角度から描かれていて、これだけの人間ドラマを取ってみても、かなりの読み応えが感じられます。

物語の舞台となる時代が東京オリンピックの前年の昭和39年ということで、高度成長期の活気ある日本の雰囲気が感じられたり、在日朝鮮人と日本人の関係も垣間見えたりと、その時代の雰囲気が感じられたのも印象深かったです。

こんな人におすすめ

高度成長期の活気ある日本の雰囲気と、それを揺るがす大事件に興味を持った人

「莫迦」と呼ばれる青年の、単純に善か悪かに絞れない様子に興味を持った人

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

興味を持たれた方は、是非とも本作品を体験してみて下さい!

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