" /> 【天人五衰】『豊饒の海』完結編!美と実存の果てに待つ三島由紀夫の答え | 本読み広場

【天人五衰】『豊饒の海』完結編!美と実存の果てに待つ三島由紀夫の答え

昭和の文学(戦後)

老いた本多繁邦が、最後の転生体として見出した少年・安永透。彼を巡る疑惑と、美が衰退していく様(天人五衰)を通して、輪廻転生の壮大な物語は「空(くう)」という究極の結末を迎える。三島由紀夫の遺書とも言える最終傑作。

物語の根幹をなす思想と時代

『天人五衰』は、三島由紀夫の文学的な遺言であり、彼が追い求めた「美と死」のテーマと、「輪廻転生」の哲学が結実する最終地点です。作品名にある「天人五衰(てんにんごすい)」とは、仏教において天人が死に直面する五つの兆候を指し、すべての存在が滅びゆくという終末思想を象徴しています。

舞台は、戦後の高度経済成長期。主人公・本多が追い求める「美」や「純粋な魂」が、戦後の虚無的な社会の中でどのように変質し、そして「無」へと帰していくのかという、三島由紀夫の歴史観と哲学が込められています。

どんな物語?

1971年(昭和46年)の作品

主人公は老齢の本多繁邦(ほんだ しげくに)。彼は、かつての友・清顕の魂が三度にわたって転生したという確信を胸に生きてきたが、人生の最後に、第四の転生体として薄幸な少年・安永透(やすなが とおる)を見出す。本多は透を養子に迎え、彼の人生を見守ろうとする。しかし、透の薄情さや転生体の印がないことから、本多は次第に自身の「転生」への確信に揺らぎを覚える。

物語のテーマは、仏教における「天人五衰」、すなわち天上の美が衰え、滅びへと向かうさまである。本多は、透の衰えを通じて、美や実在そのものの儚さを目の当たりにする。そして物語は、本多が月修寺を訪れ、清顕の幼馴染であった門跡と再会することで、すべてが「無」に帰す、衝撃的かつ哲学的な結末へと導かれる。

感想(ネタバレなし)

『天人五衰』を読み終えたとき、私の心に残ったのは、圧倒的な「虚無」の感覚でした。三島由紀夫が『豊饒の海』全四巻で積み重ねてきた美、情熱、輪廻といった壮大なテーマが、最終的に「無」という究極的な地点へと収束していく過程は、まさに文学的な奇跡であり、衝撃的なフィナーレと言えます。

主人公の本多繁邦は、この巻では九十歳近い老齢となり、衰弱した肉体と、孤独な知性だけが残されています。彼が、四番目の転生者と見定めた安永透は、過去の三人の転生者が持っていた「純粋さ」や「美的な情熱」とは異なり、戦後の虚無的で冷めた空気を体現しています。本多が、透の中に「魂の痕跡」を見出そうとする姿は、過去の美しい記憶と、目の前の虚しい現実との、切なくも厳しい対峙のように感じられました。

この小説の主題である「天人五衰」は、すべてが滅び去り、栄光が色褪せていくという運命を象徴しています。物語の終盤に訪れるある場所での驚くべき結末は、本多の七十年にわたる探求、そして『豊饒の海』全体の存在そのものに、最終的で極めて観念的な問いを投げかけます。それは、読者自身に「自分が生きてきた世界は、本当に実体があったのか」と問い直させるほど、深く、そして美しい虚無感に満ちた読書体験でした。

こんな人におすすめ

  • 三島由紀夫の文学的な遺言であり、集大成である作品に触れたい人
  • 「無」「虚無」「終末」といった観念的で哲学的なテーマを深く扱った小説を読みたい人
  • 大河小説『豊饒の海』の壮大な「輪廻転生」の物語衝撃的な結末を見届けたい人
  • 戦後の日本社会の変容と、失われた美意識を文学を通して考察したい人
  • 老いと孤独、そして「存在」そのものの真実を問う作品に興味がある人

読んで得られる感情イメージ

  • 長年の探求が迎える、静かで深い虚無感
  • 衰えていく肉体と、消えていく記憶に対する深い哀愁
  • 壮大な物語が終焉を迎えることへの、衝撃と満足感

読みどころはココ!登場人物・設定の深掘り

『天人五衰』の読みどころは、主人公・本多繁邦「老いと記憶」という設定と、最後の転生者とされる安永透の「虚無的な美」の対比です。

老齢の本多は、記憶の曖昧さ肉体の限界に苦しみながらも、四度目の転生者であるを執拗に観察します。この老いた知性と、戦後の虚無的な若者との関係は、三島由紀夫が晩年に抱いた「戦後日本への絶望」を象徴しているとも読み取れます。透が持つ現代的な冷たさ感情の欠落は、清顕や勲が持っていた「純粋な情熱」が、時代の中で「空虚」へと変質してしまったことを示唆しています。

また、物語の舞台は戦後の東京です。高度経済成長の中で物質的には豊かになったものの、精神的には空虚になった日本社会の姿が、透の「美」と「虚無」を通して描かれています。本多が、この「天人五衰」の状態にある世界と、最後の転生者をどう見つめ、そして物語の終点で何を知るのかが、この作品の最大の焦点です。

壮大な「豊饒の海」を打ち消す、三島由紀夫最後の仕掛けの真意

この作品の終盤に仕掛けられた衝撃的な結末は、『豊饒の海』全四巻の構造と、三島由紀夫の文学全体に対する究極の問いかけとなっており、その仕掛けの真意を考察する情報的な価値を持っています。

読後の余韻をどう楽しむ?

読了後、物語の最後の場面で本多が抱く「世界は本当に存在したのか?」という問いについて、深く考察してみてください。これは、仏教の「色即是空」の思想を背景に、記憶や観念によって築き上げられた個人の世界と、客観的な現実との関係を問う、哲学的・構造的な問いです。この問いは、本多の人生だけでなく、読者自身の「存在」にまで波及し、深い余韻を残します。

また、この『天人五衰』で完結した『豊饒の海』全四巻を、清顕、勲、ジン・ジャン、透という四人の転生者の魂の流れを辿る形で再読することで、「美と運命」というテーマが、時代と場所によってどのように変容したのかという、壮大な三島由紀夫の構想の全貌を、より深く楽しむことができます。

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