過ぎたことをくよくよ考えるのも、そんなに悪くない!
どんな物語
2009年(平成21年)の作品
元は優秀な銀行員であった牧野伸郎は、現在はタクシードライバーとして働いている。
あくまで、有能な自分の仮の姿として働いているつもりの伸郎だが、仕事はきつく、成績もあまり上がらない。
そんなある日、学生時代に住んでいた町まで、客を乗せることになった。
そしてそれをきっかけにして、本来自分が送るはずだった人生を妄想し、様々な思いを巡らせるようになっていく。
感想
「もう一度、人生をやり直すことができたら」
そんな思いを日頃から抱えている中年男性が主人公ですが、これは単なる物語として消費されるのではなく、読者の内面に語りかけ、人生における選択や後悔、そして希望といった誰でも日々感じていることについて深く考えさせる力を持っていると思います。
物語の根底に流れるのは、過去への郷愁と、もしあの時違う選択をしていたらという問いかけです。
しかし、それらは単なる「ああしておけばよかった」で終わらないのがこの作品の魅力であり、それによって、現在の自分がいかに過去の選択によって形成されているか、そして未来へと続く道のりも、現在の自分の意志によって開かれていくということに、視野が広がっていく様子が、とても心地よく感じます。
主人公を取り巻く、登場人物たちの何気ない会話や行動の中にも、その人の人生観や、人間関係が表現されており、読者は彼らの喜怒哀楽に共感し、時には自らの経験と重ね合わせて深く考えさせられることになります。
特に、過去の出来事に対する後悔や、失われたものへの諦め、そしてそれらを受け入れながらも前を向いて生きていこうとする人間の強さが、温かいまなざしで描かれているのが印象的です。
タクシードライバーとしての日常業務や、仕事に慣れていく様子も、とても興味深く読みました。
この作品は、特定の世代や経験を持つ人だけでなく、幅広い読者層に響くテーマを扱っています。それは誰もが経験するであろう「あの日の出来事」や「あの時の感情」を呼び覚まし、改めて自分自身の人生を振り返るきっかけを与えてくれます。
そして、過去は変えられないが、未来は今ここから作っていくことができるという、人生の道しるべのような、力強いメッセージを受け取ることができると思います。
こんな人におすすめ
主人公と共に哀愁にひたり、自分の過去と重ねながら物語を楽しみたい人
心が落ち着く穏やかな読書体験を味わいた人
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
興味を持たれた方は、是非とも本作品を体験してみて下さい!

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