「ザイルはなぜ切れたのか」をテーマに描かれる人間心理
どんな物語?
1957年(昭和32年)の作品
登山家の魚津が仲間の小坂と雪山を上っている最中に、小坂は滑落し、命を落としてしまう。
魚津と小坂をつなぐ命綱であるはずの、ザイルは切れていた。
本来切れるはずのないザイルが切れたということで、魚津と小坂を知る人達の間ではもちろん、世間でも様々な憶測が飛び交う。
感想
物語全体を通してのテーマは、「なぜザイルは切れたのか?」という謎に答えを出そうとする人々の様々な努力や解釈です。
そしてその謎に近づこうとするなかで、人間の内面や極限状態の心理を深く掘り下げてゆく様子は、読者に強い印象を残します。
物語は淡々と続いていく長編ですが、全く飽きが来ない所に不思議な感じを持ちながら読み進めました。
主人公である魚津が、親友の死というあまりにも重い現実と向き合いながら、ザイルが切れてしまったという謎を追及していく様子には、悲しみの感情を感じずにはいられませんし、
魚津の考えと、魚津と小坂を取り巻く人々の、様々な考えや解釈の違いに悩まされる場面では、抱える苦悩が身にしみて感じられます。
美しい自然の壮大さと厳しさ、そしてその中で試される人間の精神力と肉体。物語はそうした登山におけるリアリティを緻密に描写しながら、同時に人間の心に潜む脆さ、弱さ、そして強靭さを浮き彫りにしていきます。
そして、その謎を取り巻く人達を描きながら、男女間の嫉妬や不安などの心理描写も巧みに描かれ、決して読者を飽きさせることはありませんし、それも物語の大きな魅力です。
読み終えた後も、その残像が心に残り、人間存在の根源的な問いについて考えさせられる、
またいつか読み返してみたいと思える作品です。
こんな人におすすめ
事件を取り巻く、登場人物の様々な心の動きを感じてみたい人
濃厚な文学作品をじっくり味わいたい人
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
興味を持たれた方は、是非とも本作品を体験してみて下さい!

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